亡くなった船戸結愛ちゃんのアパートを訪ねる事にした

 

●2017年12月25日、僕(九条秋来)は1300円でGalaxy S6を手にしたが、翌年3月2日、目黒区で当時5才の船戸結愛ちゃん両親に虐待されて亡くなった事件が連日報道された。

スマホを見ると、いつもウンザリするほどその事件が流れていた。

 

僕は結愛ちゃんに同情する気持ちはあったが、同情しても結愛ちゃんが生き返るわけでも無いので、無視する事を試みた。

メディアにとっては格好の視聴率アップの材料にされているような事件だと割りきって考えてみる事にしていた。

 

しかし、自分の内なる心が毎晩のように僕に話しかけてくる。これには参った。

『結愛ちゃんが亡くなった現場に行ってみろ』と内なる心が言う。

「何でだよ?。行ったって結愛ちゃんが生き返るわけでも無いだろ」僕は応える。

『いいから行ってみろ』

「考えとくよ、とにかくあまり俺に話しかけないでくれ。寝れないじゃないか!」

そんな問答が繰り返し、毎晩続いて不眠症になっていった。

 

 

この不眠症を解決するには、内なる心が言うように結愛ちゃんが亡くなった現場に行くしか無いなと覚悟を決めた。

しかしネットで流れている情報は目黒区で結愛ちゃんが亡くなったと言う事だけだ。目黒区だけでは現場は解らない。亡くなったアパート名も解らない。

毎晩しつこくスマホで結愛ちゃんのネタを検索して、とにかく東ケ丘1丁目というとこまで解った。

これなら、行って探す事は出来そうだ。

 

●そして真夏のくそ暑い次の日曜日2018年6月24日、僕は電車で結愛ちゃんが亡くなった現場に出かけた。

渋谷駅から東急東横線に乗り換え、

最寄りの学芸大学駅で下車した。妙に駅に密着して小さな店が、まるで原宿の様に密着して立ち並ぶ駅だった。ガロの〈学生街の喫茶店〉を思わせる様な店があればそこで休憩しようと思ったがそんな店は見つからない。

駅前のロータリーでタクシーを拾うつもりだったがそのロータリーが無いのに驚いた。

仕方なくバス通りに出てタクシーを拾った。

「船戸結愛ちゃんが亡くなった現場に行きたいんですが、解りますか?」と運転手に尋ねた。

「いや解らないですね。とりあえず東ケ丘1丁目に行ってみましょう」運転手は結愛ちゃんの事件には全く興味が無い様子でそう答えた。

 

タクシーで駒沢通りに入るとすぐに交番が見つかった。その前でタクシーを降り、その柿の木坂交番に入った。

「結愛ちゃんが亡くなったアパートに行きたいんですが?」普通に道順を聞く様に訪ねてみた。

「そんな事は教えられない」ケチな警官だ。まあしょうが無いかと思った。

仕方なくその交番を出て、一方通行路を逆に歩いて行く。そこで住民らしいオジさんに訊いてみた。

「ああ・・・そのアパートならこの先ですよ」とオジさんは教えてくれた。

 

この先に結愛ちゃんが亡くなったアパートがあるはずだと思い、歩き続けたがそんなアパートは見つからない。また通りがかりの住民らしいオジさんに尋ねてみた。

オジさんはそのアパートを指差して教えてくれた。

なんとそのアパートは今通りすぎたばかりのアパートだった。

メディアで報道されていたアパートは花束やお菓子がいっぱい飾られていたが、そんな物は全て撤収されていたので気づかなかったわけた。

しかしよく見るとベランダに少しお菓子が供えられていた。

僕も来たしるしと弔いの為に近くのスーパーでチョコレートを買ってそこに並べてスマホで動画を撮影してみた。

それからアパートから少し距離を置いて、僕の特殊視力で結愛ちゃんの霊らしい物が見えないか観察したがそんなのは全く見えない。

もし結愛ちゃんの霊が居るとしたら、結愛ちゃんが亡くなったあの部屋にいるはずだが、アパートの管理人に連絡して「結愛ちゃんの部屋を見たいんですが?・・・」とお願いする勇気は小心者の僕には無いし、単なる変人と思われるのがオチだ。

仕方なく近所の公園とかを観察したが、結愛ちゃんの霊がそんなところで遊んでいるわけは無いし、僕の特殊能力では昼間の明るいところでは、霊とかは見えるはずも無い。

 

とりあえずこれで、結愛ちゃんが亡くなった現場訪問1回目は終了する事にした。

 

自宅に帰り、結愛ちゃんのアパートを撮影した動画をYouTubeに流し何回もそれを観察したが、やはり霊らしい物は映っていない。

 

その夜、寝ていると内なる心が話しかけてきた。

『どうだった。結愛ちゃんの霊には会えたか?』

「会えるわけ無いだろ、居たとしても見知らぬ他人の僕に近づいてくれるわけが無い」

『それもそうだな、そのうちまた何回も訪問したら、いつか会えるかもしれない』

「わかったまた、行ってみるよ」

 

と言うわけでこの日が最初の結愛ちゃんの現場訪問だった。

 

それから何回もバイクを飛ばして、結愛ちゃんの現場をFLET'Sで買ったドールと共に訪れた。

時には現場の近くのファミリーマートで買ったアイスキャンディを供え、時にはスイカを供えて動画を撮った。

それにしてもこの現場でそんな動画を撮るには勇気がいる。小心者の僕は誰かに何か言われないかといつも気にしながらスマホで動画を撮った。

 

そんな事を続けていれば、結愛ちゃんが僕に興味をもって近づいてくれるかも知れないと思ったからだ。

 

夜、眠れない夜に内なる心に質問してみた。

 

「もし、結愛ちゃんの霊に会えたとしても、それからどうしたらいいんだ?」

『結愛ちゃんに生まれ変わってもらう』

「そんな事が出来るのか?」

『宇宙は広い。人間1人ぐらい生き返らせる事が出来る存在がいるはずだ。黄色い坊さんの話を覚えているだろ?』

「ああ覚えている」

黄色い坊さんとは、僕が馬小屋で生まれた次の日に誕生祝いに訪れた黄色い服装の3人の坊さんだ。宇宙の遥か彼方から僕の誕生を祝いにやって来たと、霊感の強い母がいつもそんな事を言っていた。

そして、その坊さん達は空間に吸い込まれる様に去って行ったと言う・・・

『その坊さん達なら人間1人ぐらい生き返らせる力を持って居るかもしれない。今からその坊さん達を探しに行く。それじゃしばらく帰ってこないかもしれないが、気にしないように』

 

そう言ったあと、僕の頭の中で爆発音がした。

前にもあったが、爆発音がして内なる心がどこかへ行ってしまうと、その後何年も奴は帰って来ない。多分遥かな彼方の宇宙空間に飛んで行ったんだと僕はいつも思っていた。

まあとにかく、これでしばらく1人静かに暮らせるわけだ。