プロジェクトゲーム 4 聾唖画家現る
ダッコ社で発売されている日本版【ミリオンゲーム】を完全に理解し、その上を行く【プロジェクトゲーム】を企画するためにまずプロジェクトゲームのパッケージデザインを完成しようと思った。
自分が漠然とイメージしているプロジェクトゲームの内容をパッケージデザインで表現すればスタッフ全員に僕の頭の中のゲームイメージが浸透して展開がやりやすいと思ったからだ。
とにかくパッケージデザインのプリゼンテーションは2週間後に決めた。
デザインのコンセプトはまず、【プロジェクトゲーム】のロゴをパッケージから飛び出すようなデザインにする。これは今までのゲームデザインでは誰もやっていない、筈だし見たこともない。その為に2点透視の技法を使う。この技法をやるのは初めてだったが問題は無い。
そして丸1日がかりでロゴのデザインは出来上がった。
あとはこれにパステルで色付けするだけだ。
ラフデザインはいい感じで出来上がった。今までのボードゲームのデザインとは全く違う画期的デザインだ。
(※あの頃の僕のデザイン力を全て出し切ったと思う)
ゲームのキャッチフレーズも僕が考え、ロゴの前にゲームの中心人物を適当に描く。
あとはプリゼンを待つだけだ。
そして、プリゼンテーションの日が来た。
僕が制作した作品は1点だけだ。
普通プリゼンには2点か3点は提出する。そんな事は知っていたが、気にしなかった。その事に鹿元社長は不満そうだったが仕方ない。とにかく1点しかないんだから。
その1点を持ってダッコ社でプリゼンした。
その作品を見るなり、担当者達は感激した。思った通り、これで決まりだ。
あとはエムデザインに帰り、このパッケージデザインが印刷原稿になるまでの版下作業をするだけだ。
しかし問題が一つある。パッケージの【プロジェクトゲーム】のロゴの前に悠然と構えている男のイラストだ。プリゼンのデザイン画の段階では僕が適当にごまかしの写実的イラスト風に描いたが、これでは本番の印刷原稿にはならない。
エムデザインに出入りしているイラストレーターに相談したが、「これは俺には無理だ」と断られ「君が描いたら?」と言われたが自分でラフデザインを描いたがそんな自信は無い。
それじゃ誰に描いてもらおうかと悩んでいた時に、彼が現れた。
昼休みのコーヒーをのんでいると社長夫人が言った。
「九条君、お客さんが来てるわよ」
僕にお客さん?一体誰かな?
玄関に行くとエネルギッシュな男がポートフォリオを持って立っていた。どうやら作品の売り込みらしい。
男はスケッチブックに『はじめまして』と書いて見せてくれた。どうやら聾唖者らしい。彼を応接室に招いてコーヒーを一緒に飲みながら話しを聞く事にした。そして作品集を見せてもらって驚いた。
それは今まで見たこともないエネルギッシュな作風だった。彼はスケッチブックに自己紹介を書いた。名前は蟻ノ巣氏(仮名)。
最近までアメリカのロスに住みセントラルパークで絵を描く活動をしていたらしい。
それを取り上げた新聞記事も見せてくれた。
そしてエネルギッシュなイラスト作品を次々と見せてくれた。
感動するしかない作品群を見て、【プロジェクトゲーム】のイラストは彼に描いて貰う事にした。
ロゴを含めたパッケージデザイン全体をイラストで描いて貰う事を最終的に決定。2週間後には完成イラストが見れる。
これでひと安心だ。