プロジェクトゲーム 1 東京へ

僕は19才だった。

 

毎日キ○ガイの父親の塗装の仕事を手伝う羽目になってウンザリしていた。

18才の時、KFSの先生の紹介で車販売の為のノベルティーのバッグをデザインする会社を紹介されて上京したがその仕事に全く興味を持てず3ヶ月で辞めた。

そして求人広告で応募したエムデザイン会社に勤め、何故か大きなキャンペーン広告のすべてを任された。

それは駅ビルの新装開店キャンペーンで東京の全ての駅に張るB全ポスターと車内吊りポスターのデザインとイラストの仕事で全力を出し切って取り組んだ。それをキッカケに有名になったり女の子にモテたりするかと思ったがそんな事は全く無い。東京と言うところはそんな甘いもんでは無い。東京はモンスターで1人の人間の個性や努力なんかあっと言うまに呑み込んでしまう。

大きな仕事はそれきりであとは雑用ばかりでウンザリして大阪に帰った。

そしてまた父親の仕事を手伝っていた。

 

なんかまた大きな仕事をしたい希望はあったが、どうすれば出来るのか、全くわからない。

 

19才なのに恋人もガールフレンドとかもいなくて退屈していた。恋人とまではいかなくてもガールフレンドぐらいは欲しくて、日曜日には高校時代の友人とホンダS8でベンチャーズを聞きながら京阪道路を100キロ以上で跳ばして。京都にドライブし舞子さんを遠くから見たり、喫茶店巡りをして『どっかにいい女の子いねえかな?』とかぼやきながら先の見えない日々を過ごしていた。

そんなある日の夜、久しぶりに内なる心の声が聞こえてきた。小学生の時以来だから実に10年ぶりに聞く声だ。

『プロジェクトが始まるぞ!』

「何のプロジェクトだ?」

聞いたが返事は無かった、それきりだった。わけがわからんがとにかく何かプロジェクトが始まるらしい。今まで内なる声が言った事はほとんど現実になっているし。

 

次の日も父親の仕事の手伝いの塗装の仕事だ。佐竹冷機と言う工場で作られた機械を塗装する。工場の一階で作られた機械を二階の塗装室に上げ磨いて焼き付け塗装をする。納品先は主に近くにある松下電器だ。

 

全く何のクリエイティブも無い面白く無い仕事だ。たまに工員のオンボロマイカーをピカピカに塗ったり芸術的に塗っりして気を紛らす。仕事が終わると近くの喫茶店に寄ったりするがそこにはオバチャンしかいない。

そしてアパートに帰り母が作った食事をいただいてテレビを見る毎日だ。

 

だが、その日は違った。

「東京のエムデザイン事務所(仮名)から電話があったわよ」と母が言った。

「えっ電話?」

「うちの電話番号がわからないので、NTTで九条姓を全部調べてかけていたんですって」

あそこに提出した履歴書にはここの電話番号なんか書いて無かったのに何故調べてまで電話して来たのかと思った。何か重要な話があるのか?

 

とにかくすぐにエムデザインの社長の家に電話してみた。

「あら九条君、久しぶり・・・」

電話に出たのは社長の奥さんだった。

「今度大手の玩具会社ダッコ社から大きな仕事が入ってね。この仕事は天才の貴方にしか出来ないと思って電話番号を探したのよ、声が聞けて良かったわ」

大きな仕事?ひょっとして内なる声が言っていたプロジェクトとはこの事か、いや多分そうだろう。

何となく期待がもてそうだ。