ネリカン帰りの男はどう生きた?1

 

 

僕が21面相を名乗るネリカン帰りの男と出会ったのは5才の時だった。

5才になったある日、僕は田舎からK市の長屋に母と弟と共に引っ越した。

次の日、僕は家の前にある水汲みポンプで遊んでいた。

その時男が近づいて来て僕に言った。

「俺、東京のネリカンから帰って来たばかりなんだ。その水飲ませてくれよ」

男はこう言ったが、今から考えてみるとこのセリフはおかしい。普通なら初対面の子供の僕にこんな事を言うわけが無いが、よほどネリカン帰りと言う事にプライドを持っていたんだろと考えるしかない。

あの頃はネリカンブルースが大ヒットしてラジオからは毎日この歌が流れていた。そんな時代だったからな。

「うんいいよ。僕も引っ越してきたばかりで友達いないんだ」

こうして僕とネリカン帰りの男は友達になった。

「あそこのかき氷屋に行かないか、ネリカンで稼いだ金があるからおごらせてくれ、友達祝いにな」

僕は男に連れられその店に行った。

店に入るとおばちゃんが

「おやまあカズト君、ネリカンから帰って来たのかい。それならお祝いにただでご馳走してあげるよ、たこ焼きもかき氷もいっぱいお食べ」

どうやらこの店のおばちゃんとは顔馴染みらしい。

そうして、ネリカン帰り祝いと友達になった祝いに僕はかき氷とたこ焼きをいっぱい食べさせてもらった。男の名前も犬町カズトと解った。