住友不動産販売にマンションを騙し取られた話し。1
あの頃僕は漫画古本専門店『マンガ感』を経営していた。『マンガ感』の経営状態は悪くファミコンの中古販売やファミコン本体の修理等もしていたが儲かると言うには程遠い状態だった。そしてそろそろ閉店しようかとも考えていた。
妻とは離婚が決定していて、僕が苦労してローンで買ったマンションには妻が次の住まいが決まるまで住み、僕は別居と言う形で店の近くにアパートを借りて住んでいた。
そんな変則的な生活だった。妻がどっかに引っ越したらしいので、僕はマンションに戻る事にした。
ドアを開けて中に入ると、そこにはほとんど何も無かった。残されたの僕のベッドとバスルームのバスタオルと歯ブラシとコップだけだった。
幸福な家庭を築こうと思っていた空間が蝉の脱け殻のような空間に変貌してしまったと思った。
この部屋をどうするか前から考えていた。
いっそのこと転売してローンとの差額で得た金で何か新しいビジネスでも始めるか?そんな、考えをしながベランダで煙草を吸いながら外のテニスコートを眺めていると雨になったのでガラス戸を締めベッドに横になった。
朝起きて郵便受けを見ると封筒が入っていた。
「何だろう?」と思ってみたら住友不動産販売大宮支店からの封筒だった。
何故住友不動産販売からこんな物が来ているのか、開けて確かめるしか無い。
あけて文書を見ると信じられない事が書いてあった。
『マンションの転売手続きが完了しましたので、今月末に部屋を明け渡して下さい。』全く意味不明の訳のわからない内容だった。そもそも住友不動産販売に電話さえした事が無い!。
これは多分別れた妻、いや元妻が仕組んだ事に違いないと想像はついた。
とにかく、住友不動産販売の営業時間を待って電話した。支店長の石井が出た。
「お宅からこんな通知が来ていました。マンション所有権者の僕はそんな契約はした覚えがありません」と僕は伝えた。
そして大宮支店に出向く事にした。
「全くあの女余計な事をしてくれたな・・・」と呟きながら。
住友不動産販売大宮支店のドアを開けた。小太りの支店長の石井が現れち。
送られて来た封書を石井に見せた。
「僕が所有権者ですが、どう言うわけで転売が完了したのか説明してくれますか?」
彼は困った顔で、元妻が転売を依頼した書類を見せてくれた。僕から彼女に依頼した委任状も見せた。
僕の偽の印鑑が押してある。安い金でどっかで勝手に作った印鑑だ。
僕は自分の実印と実印印鑑証明書を見せた。
「不動産売買の重要な案件ではまず本人の印鑑か、本人に直接連絡をとるのが常識ですよね。お宅から送られて来たこの書類は全く無効ですね」
「わかりました」と石井は言った。
さあこれからどうするか?とりあえず僕は『マンガ感』に向かった。
客が来るまで暇潰しにテレビを見ながら考えていた。
詐欺で住友不動産販売を騙して、元妻がやった事だが信じられない気もした。まるで安っぽいテレビドラマみたいなもんだが、考えれば考えるほど現実とは思えない。